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口腔機能発達不全症のチェック方法|専門家が教える7つのサイン
口腔機能発達不全症とは?子どもの健やかな成長に関わる新しい病名
子どもの食事中、「よく噛まないな」「食べるのが遅いな」と感じたことはありませんか?
実は、これらは単なる食事の癖ではなく、「口腔機能発達不全症」という状態のサインかもしれません。2018年に保険適用になったこの新しい歯科の病名は、18歳未満の子どもで、生まれつきの障害がないにも関わらず、食べる、話すなどのお口の機能が十分に発達していない状態を指します。
最近の調査では、10代の半分近くが口腔機能発達不全症の疑いのある症状を経験しているという驚くべき結果が出ています。この背景には、現代の食生活の変化があるのかもしれません。軟らかくてあまり噛まなくても飲み込める食べ物が増え、噛む力が十分に発達しないケースが増えているのです。
お口の機能は生まれたときから始まり、体の成長に伴って発達していくものです。「食べる機能」と「話す機能」は、子どもの成長過程で自然に身につくと思われがちですが、実はさまざまな要因によって発達が妨げられることがあるのです。
口腔機能発達不全症の7つのサイン|専門家が教える見逃せないポイント
お子さんに以下のようなサインが見られたら、口腔機能の発達に注意が必要かもしれません。専門家が指摘する主な7つのサインを詳しく見ていきましょう。
これらのサインは、単独ではなく複数現れることが多く、また年齢によっても現れ方が異なります。お子さんの成長段階に合わせて確認していくことが大切です。特に乳幼児期から学齢期にかけての口腔機能の獲得は、将来の口腔機能の維持・向上にも大きく影響します。
1. 食事に関するサイン
食事中の様子は、口腔機能の発達状況を知る重要な手がかりとなります。次のような特徴が見られないか観察してみましょう。
- 偏食が激しい:特定の食感や硬さの食べ物だけを好む
- 食べるのに極端に時間がかかる:同年代の子と比べて明らかに食事時間が長い
- むら食いが目立つ:好きな食べ物だけを選んで食べる
- よく噛まずに丸飲みする:食べ物を噛まずにそのまま飲み込んでしまう
これらの症状は、噛む力や舌の動きが十分に発達していないことを示している可能性があります。特に「よく噛まない」という特徴は、顎の発達や将来の歯並びにも影響するため注意が必要です。
食事の様子を観察する際は、単に「食べない」「遅い」といった表面的な様子だけでなく、どのように噛んでいるか、舌はどう動いているか、飲み込み方はどうかなど、口の中の動きにも注目してみましょう。
2. 話し方や発音に関するサイン
話し方や発音の特徴も、口腔機能の発達状況を反映します。以下のような特徴が見られないか確認してみましょう。
- 特定の音が発音しづらい:「さ行」「た行」などの発音が不明瞭
- 舌足らずな話し方が続く:年齢相応の発音ができない
- 口から息が漏れるような話し方:鼻から空気が抜けるような発音
発音は舌や唇、顎の動きと密接に関係しています。特に舌の動きが制限されていると、正確な発音が難しくなります。3歳を過ぎても発音が不明瞭な場合は、口腔機能の発達に課題がある可能性があります。
子どもの発音の問題は、単なる「かわいい話し方」ではなく、将来のコミュニケーション能力にも影響する重要なサインかもしれません。
3. 口呼吸に関するサイン
健康的な呼吸は鼻で行うものですが、口で呼吸する「口呼吸」の習慣がついてしまっている子どもが増えています。口呼吸のサインとしては以下のようなものがあります。
- 普段から口が開いている:無意識のうちに口が半開きになっている
- 寝ているときにいびきをかく:睡眠中の呼吸が口で行われている
- 唇が乾燥している:常に口で呼吸するため唇が乾く
口呼吸は単なる癖ではなく、顔の発達や歯並び、さらには全身の健康にも影響を及ぼします。口呼吸が習慣化すると、上顎が狭くなり、歯並びが悪くなるリスクも高まります。
鼻呼吸は空気を温め、加湿し、フィルターする役割も果たしています。口呼吸が続くと、これらの機能が働かず、風邪やアレルギーにかかりやすくなることも。
口腔機能発達不全症のチェックリスト|自宅でできる簡単診断
専門家が作成した口腔機能発達不全症のチェックリストを使えば、お子さんの状態を簡単に確認することができます。離乳完了前と離乳完了後で確認すべきポイントが異なりますので、お子さんの年齢に合わせてチェックしてみましょう。
このチェックリストは、日本歯科医学会が公表している「口腔機能発達不全症に関する基本的な考え方」に基づいています。2つ以上の項目に該当する場合は、口腔機能発達不全症の可能性があります。
離乳完了前(1歳半頃まで)のチェックポイント
乳児期から離乳食期にかけては、以下のようなポイントに注意しましょう。
- 哺乳の問題:リズミカルな吸啜運動ができない、授乳時間が極端に長い・短い
- 離乳食の進み具合:月齢に合った固さの食べ物を受け入れない
- 口の動き:舌と口角の偏位が見られる、前歯でかじりとりができない
- 口唇の閉鎖:常に口が開いている状態が続く
離乳食期は口腔機能の発達において非常に重要な時期です。特に「噛む」という動作を獲得するためには、適切な時期に適切な固さの食べ物を経験することが大切です。
もし複数のチェックポイントに当てはまる場合は、かかりつけの小児科医や歯科医に相談してみることをおすすめします。早期発見・早期対応が何よりも大切です。
離乳完了後(1歳半以降)のチェックポイント
幼児期以降は、より具体的な食べ方や口の動きをチェックします。
- 食べ方の問題:よく噛まない、丸飲みする、食べこぼしが多い
- 飲み込み方:飲み込むときに前歯で舌を押す、むせることが多い
- 発音の問題:特定の音が不明瞭、舌足らずな話し方が続く
- 口腔習癖:指しゃぶり、舌突出、口呼吸などの癖がある
- 口唇の状態:常に口が開いている、唇が乾燥している
日本歯科医学会の基準では、離乳完了後のチェックリストにおいて、「食べる機能」「話す機能」の項目で2つ以上の該当項目があり、そのうち少なくとも1つは「食べる機能」の問題を含む場合に「口腔機能発達不全症」と診断されます。
私が臨床で見てきた多くのケースでは、3歳頃までに適切な対応を行うことで、口腔機能の発達が大きく改善することがわかっています。お子さんの様子が気になる場合は、早めに専門家に相談することをためらわないでください。
口腔機能発達不全症が子どもの将来に与える影響
口腔機能の発達不全は、一時的な問題ではなく、お子さんの将来にも影響を及ぼす可能性があります。放置すると、どのような問題につながるのでしょうか?
口腔機能は単に「食べる」「話す」だけでなく、顔の発達や全身の健康にも深く関わっています。適切な時期に適切な機能を獲得できないと、長期的にさまざまな影響が出ることがあります。
歯並びや顎の発達への影響
口腔機能の発達不全は、歯並びや顎の発達に大きく影響します。
- 噛む力の弱さ:顎の骨の発達が不十分になり、歯が並ぶスペースが確保できない
- 舌の位置異常:舌が前に出る癖があると、前歯が前に押し出される
- 口呼吸の習慣:上顎が狭くなり、歯並びが悪くなるリスクが高まる
これらの問題は、将来的に矯正治療が必要になる可能性を高めます。しかし、早期に口腔機能の発達をサポートすることで、顎の正常な発達を促し、歯並びの問題を予防できることもあります。
全身の健康への影響
口腔機能の問題は、意外にも全身の健康状態にも影響を及ぼします。
- 栄養摂取の問題:噛む力が弱いと食物繊維の多い野菜や肉などが食べにくく、栄養バランスが偏る
- 消化器系への負担:よく噛まないと消化不良を起こしやすくなる
- 睡眠の質低下:口呼吸による睡眠時無呼吸のリスク増加
- 姿勢への影響:口呼吸は頭の位置を前に出す姿勢につながりやすい
特に口呼吸の習慣は、単なる口の問題を超えて、睡眠の質や集中力、さらには学習能力にも影響を及ぼす可能性があります。口呼吸が続くと、酸素の取り込みが不十分になり、脳の発達にも影響することがあるのです。
あなたのお子さんの将来の健康のためにも、口腔機能の発達には注意を払う価値があります。
口腔機能発達不全症の治療法|家庭でできるトレーニング
口腔機能発達不全症と診断されても、適切なトレーニングで改善することができます。ここでは、専門家が推奨する効果的なトレーニング方法をご紹介します。
これらのトレーニングは、歯科医院での指導を受けながら、日常生活の中で継続的に行うことが大切です。短期間で劇的な効果を期待するのではなく、お子さんの成長に合わせて根気よく続けることがポイントです。
口唇閉鎖・舌位のトレーニング
口唇をしっかり閉じる力と、舌を正しい位置に保つトレーニングは基本中の基本です。
- 風船トレーニング:手を使わずに風船を膨らませる練習
- 吹き戻しトレーニング:唇をラッパ型にして息を吹く練習
- 舌の位置確認:「ン」と言ったときの舌の位置を意識する練習
これらのトレーニングは、口輪筋(唇の周りの筋肉)を鍛え、正しい舌の位置を覚えるのに役立ちます。特に「舌の位置」は非常に重要で、安静時に舌が上顎に軽く触れている状態が理想的です。
これらのトレーニングは楽しみながら行うことが大切です。遊びの一環として取り入れることで、お子さんも抵抗なく続けられるでしょう。
ガムトレーニング
噛む力を鍛えるためのガムトレーニングも効果的です。ただし、これは年齢に応じて行う必要があります。
- 左右均等に噛む練習:こめかみに手を当てて、左右の筋肉の動きを確認しながら噛む
- ガムの吸い上げ:ガムを上顎に押し付けるトレーニング
- 舌の位置確認:ガムを舌の上に丸め、上顎につける練習
ガムトレーニングを行う際は、必ず口を閉じて行うことがポイントです。また、むし歯予防のために、糖分の少ないデンタルガムを使用しましょう。
トレーニングの効果は個人差がありますが、継続することで徐々に改善が見られます。特に偏側咀嚼(片側だけで噛む癖)のある子どもには、左右均等に噛む意識づけが重要です。
日常生活での工夫
特別なトレーニングだけでなく、日常生活の中での工夫も口腔機能の発達に大きく影響します。
- 食事環境の整備:家族そろって食事をする機会を増やす
- 食材の工夫:年齢に合った硬さの食べ物を提供する
- 食べ方の指導:よく噛むことを習慣づける
- 姿勢の確認:食事中の姿勢を正しく保つ
特に食事は口腔機能を発達させる絶好の機会です。「30回噛む」などの具体的な目標を設定したり、噛みごたえのある食材を意識的に取り入れたりすることで、自然と口腔機能を鍛えることができます。
食事中はテレビやタブレットなどを見ないようにし、食べることに集中できる環境を整えることも大切です。
専門家による口腔機能発達不全症の診断と治療
自宅でのチェックやトレーニングだけでなく、専門家による適切な診断と治療も重要です。どのような流れで診断・治療が行われるのか見ていきましょう。
口腔機能発達不全症は2018年に保険適用となった比較的新しい病名です。そのため、対応できる歯科医院はまだ限られているかもしれませんが、小児歯科や矯正歯科を標榜している医院では対応できることが多いでしょう。
診断の流れ
口腔機能発達不全症の診断は、主に以下のような流れで行われます。
- 問診:食事の様子や日常生活での口の使い方について詳しく聞き取り
- 口腔内診査:歯並びや咬み合わせ、舌の動きなどを確認
- 機能検査:舌圧測定や咀嚼能力検査などの客観的評価
- チェックリスト評価:標準化されたチェックリストによる評価
診断基準としては、日本歯科医学会の「口腔機能発達不全症に関する基本的な考え方」に基づき、「食べる機能」「話す機能」などの項目で2つ以上の該当項目があり、そのうち少なくとも1つは「食べる機能」の問題を含む場合に「口腔機能発達不全症」と診断されます。
診断後は、お子さんの状態に合わせた管理計画が立てられ、定期的な評価と指導が行われます。
保険適用と治療期間
口腔機能発達不全症の治療は、健康保険が適用されます。
- 対象年齢:15歳未満(初診が14歳以下であれば18歳まで可能)
- 保険点数:歯科疾患管理料(100点)算定日に、口腔機能発達不全症管理料(100点)を加算
- 治療期間:基本的に6ヶ月を1クールとし、1ヶ月に1回の通院が目安
治療は一般的に長期間にわたることが多く、お子さんの成長に合わせて継続的に行われます。早期に発見し、適切な管理を行うことで、将来的な問題を予防することができます。
専門家による診断と治療は、自宅でのトレーニングをより効果的にするためにも重要です。気になる症状があれば、まずは小児歯科や矯正歯科の専門医に相談してみましょう。
まとめ:子どもの口腔機能発達を支えるために
口腔機能発達不全症は、18歳未満の子どもで、生まれつきの障害がないにも関わらず、食べる、話すなどのお口の機能が十分に発達していない状態を指します。10代の半分近くが何らかの症状を経験しているという調査結果もあり、決して珍しい問題ではありません。
この記事でご紹介した7つのサインを参考に、お子さんの口腔機能の発達状況をチェックしてみてください。気になる点があれば、早めに専門家に相談することをおすすめします。
- 食事に関するサイン(偏食、食べるのに時間がかかる、むら食い、よく噛まない)
- 話し方や発音に関するサイン(特定の音が発音しづらい、舌足らずな話し方)
- 口呼吸に関するサイン(普段から口が開いている、いびき、唇の乾燥)
- 歯並びや顎の発達への影響(噛む力の弱さ、舌の位置異常、口呼吸の習慣)
- 全身の健康への影響(栄養摂取の問題、消化器系への負担、睡眠の質低下)
口腔機能の発達は、単に「食べる」「話す」だけの問題ではなく、お子さんの将来の健康や生活の質にも大きく関わる重要な要素です。適切な時期に適切な機能を獲得できるよう、家庭でのサポートと専門家による指導を組み合わせて対応していきましょう。
お子さんの健やかな成長のために、口腔機能の発達にも目を向けてみませんか?早期発見・早期対応が、お子さんの明るい未来につながります。